[テーマ/目次] 

所領の寄進について

メールでの質問への応答です(2003.02.18&2003.02.22)。
> 開発と寄進には何か論理的つながりはあるのでしょうか?
> あくまで開発してる時期に寄進が進んだ、OR
> 開発の進行が寄進を促進させた、程度でしょうか?
> 開発なくして寄進なし、というほど強い論理があったのかなぁ、
> とふと疑問に思いました。

すでに開発された土地,あるいは開発される予定地でなければ,寄進するとい
う行為そのものが成立しませんから,「開発なくして寄進なし」と言えると思
うし,その次元においては,「開発の進行が寄進を促進させた」とも言えると
思う。また,開発の進行が私領をめぐる紛争を引き起こしてもいくわけだから,
その意味でも「開発の進行が寄進を促進させた」と言えると思う。

しかし,両者に論理的なつながりはないだろう。寄進と論理的なつながりをも
つのは,所領支配も含め,さまざまな権利・権益を確保・維持するための“必
要十分条件”でしょう。

そもそも,律令国家解体以降,中世と呼ばれる時代において,在地の人びとが
自らのさまざまな権利・権益を確保するには,(1)由緒と(2)実力が不可欠とさ
れていました。
「由緒」とは,他者からの保証づけのことで,たとえば朝廷・国司からの権利
付与,天皇家・有力貴族などの権門からの権利付与,近隣の有力者からの私的
な庇護,父祖からの相続など,さまざまなパターンがありえます。
しかし,そうした「由緒」があったとしても,いいかえれば由緒正しくとも,
自らの「実力」を伴わなければ権利・権益を確保・維持することはできません。
逆にいえば,たとえ「由緒」がなくとも(由緒を偽装することもありえる!)
自らの「実力」をもって確保しつづければ,自らの権利・権益として認知され
ることがありえたのです−そこに新たな「由緒」が発生する!(御成敗式目第
8条の当知行年紀法を想起してほしい)−。

したがって,自らの「実力」が不足していて権利・権益の確保が困難に陥った
場合(あるいはそうした困難に直面することをあらかじめ回避するため),よ
り強力な「由緒」をもとめてさまざまな勢力とのコネクションがつけられてい
きます。そのコネクション作りのための手段の一つが,“所領の寄進”だった
のです−他には“主従関係の形成”という手段もあります−。

[2003.02.18]

***********************************************************************

> 寄進された土地というのは開発された土地だったのですか?
> 僕が習ったのは、自分の耕作していた土地全て、というものでした。
> 何かの聴き間違いでしょうか?
> (耕作していた土地全て、だと、別に開発しなくても寄進はありうるよなぁ、という
> 理解で質問してみたわけです。)

寄進された土地は,基本的に“収益を生み出すことのできる土地”なので,そ
れは当然,「開発された土地」です。
と書いても,君の疑問ははれないよな(笑)。
しかし,「寄進された土地というのは開発された土地だったのですか?」とい
う質問は,開発主体を想定していないのだから,「寄進された土地というのは
(自分あるいは誰か他の人物によって)開発された土地だったのですか?」と
質問しているんですよ。

それはともかく,君は「自分が開発した土地を寄進したのか,それとも自分が
耕作している土地を寄進したのか?」と質問したいのでしょう。
それに対する答えは“必ずしも二者択一ではない”となります。
そもそも,寄進の主体として想定されている開発領主は,自らの所領をすべて
“自分で”耕作しているのだろうか?誰か百姓に耕地を割り当てて耕作させる
というケースはないのか?
また,開発した人物の子孫が寄進主体として登場するケースはないのか?
こうしたことを念頭におけば,自分が開発した土地か,自分が耕作している土
地かなどには関係なく,とにかく“自分が権利を有している(あるいは権利を
有していると主張する)土地”が寄進された土地であることがわかるはず。

とはいえ,授業では“自分で耕作している土地”と説明している方が早いです
けどね(笑)。

> 由緒と実力というのは言いかえれば権威と権力ですよね。
君が「権威」「権力」をどのような概念として把握しているのかが分からない
ので,何とも言えないのだが,「由緒」という場合,自分より上級の存在から
の保証づけだけには限定されないので注意してほしい。たとえば,自分と同じ
ような境遇にある者どうしでの相互保証(たとえば国人一揆)も「由緒」を確
保するための手段としてはありえる。こういうケースも含めて「権威」と表現
するのなら,それでもよいが,あまり一般的ではないように思うので,誤解が
生じかねない。
また,「実力」は“自らの”実力(自力)です。所領外の他者による介入を排
除し,所領内の他者を支配することのできる実力という意味では,確かに「権
力」なのだが,“朝廷”や“権門”を指す「権力」との違いを明確に意識して
おく必要がある。
[2003.02.22]