丘陵に広がる初々しい田畑の先に琴の湖の漣・大村湾を望む、開拓の地「おおむら里山村」。
またの名を「スナメリの里」という。
300頭とも500頭ともいわれるスナメリが棲まう海湾の生態系は健全な山里の営みに護られている。
ここではなにもかもが手作りで、自然に生まれ自然に帰っていく。
炭焼きで燃料を作り、菜の花栽培で油を採取する。棚田やみかん園が広がり、細かく区分けされた耕地は多彩な食材を産出する。堆肥やぼかしも自前。伐採林で椎茸栽培も行う。
週末ごとのワークショップで炭焼き小屋やピザ窯を完成させ、東屋カフェやバイオトイレ、溜池・・・至る施設が現在進行形だ。新たなものづくり、文化交流、宿泊の環境も整えられる予定で、ハードとソフト(人)が有機する豊かな村の形が醸造されていくことだろう。

私といえば、東京生まれの東京育ち。原料はともかく、ワンピースにセーター、漬物、味噌、葡萄酒、ヨーグルト、パン、ジャム・・・幼少の頃は「衣・食」のほとんどが母の手作りだったが、今や生活の大半が既成品の活用で成立し、ウェルメイドな暮らしにどっぷりだ。
そんなある日、専門家領域と疑わず最も縁遠かった「住」のセルフビルド、ツリーハウスの本に出会う。
ハウスを訪ね、関連本を読み漁るうちに、ウェブで大村のワークショップを知り、遥々参加させて頂くことになった。

当日(2014.1.19)は会員と参加者、NHK番組「団塊スタイル」や地元ケーブル局の取材も入り、40~50人の老若男女で大賑わいだった。
見晴らしのいい傾斜地に、埋め込み締め固められた大小砕石+自然の束石という基礎。その上に、櫓状に組まれた黒い6本足(防腐処理で根本を焼いた)の丸太の土台が、二本の生きた杉(?)にボルトで固定され、既に前週施工済み。
ここにデッキを据え、二畳程の小屋が建つ(とやがて解る)。
角材と皮を剥いだ丸太を使用。設計図は一級建築士の方と棟梁の頭の中?
丸太大引の取付け(ドリル穴あけ+ボルト固定)→角材のデッキ張り→丸太+角材の階段作りと取り付け→デッキ上の小屋スペースに床板張り→柱、梁、桁などの角材組み~柱の垂直調整~筋交い材を打ち付け構造部分の完成→外壁の一部にかかるところで残念ながら時間切れとなった。
完成した暁には四季折々絶好の物見台となることだろう。

棟梁が角材の寸法を測り、墨付けをし、丸ノコなどでカット。仕口の加工などもノミと金槌で巧みに仕上げ、指示を出す。
これを男性陣が運び、建築士の方を中心にインパクトドライバーと2サイズの長いビスを使い分けて組み上げていく。
階段作りでは彫塑並に感覚的な電動チェーンソーの細かい歯使いの業を見た。モーターと歯部分それぞれに別種のオイル補充が必要なこと、摩耗した歯をヤスリで研ぐ手入れが必要なことも教えてもらった。
日曜大工の経験すらなく、本やネットで写真は見たが、道具の扱いも知らず現物を見た事もなかったので、1回だけチェーンソーで木切れを切らせてもらって感動、木材を運んだだけでも感動だった。
工程を見せてもらううちに、水平や垂直を出すための水準器や下げ振りといった道具の使いどころや使い方を知って、また感動。手作りのアイディア道具も沢山あって、感心するばかり。

デッキの手すりには敷地内から切り出した間伐材を使う。別班の男性陣が専用ピューラーや鎌などで大量の丸太の皮むきに苦戦。半生だとうまく剥けず、生なら楽。根に近い方から剥いでいくのがコツだそう。

女性や子供達は彫刻刀で木片のネームプレート作り。
途中で子供達が集められ、林の中のターザンブランコ作りが始まる。手頃な木を選び、高枝にロープを渡し、その先に丸太の足掛けを付ける。不要な枝ははらって落下時のクッションにする。炭焼き小屋やピザ窯作りを指導した森の達人の手に掛かれば、あっという間に出来上がり。子供達は次々と高らかに宙を舞う。

昼時やおやつ時には、果物並みの糖度を持つ地元ブランド黒田人参やみかんの生絞りジュース、窯焼きピザ、五島うどん、焼き芋などが振る舞われた。どれも絶品の美味さ。

ここには豊かな経験、様々な智恵や技術を持つシルバー人材、人生のプロやアドバイザーが結集していて、その力が遺憾なく活かされている。子供達は和やかな大人達の傍らを無邪気に走り回りながら多くのことを学んでいく。
未就学の子供達でさえ皆賢そうな眼差しをして、運動能力も極めて高い。
秘密基地を案内してくれると小さな少年が走り出す。身軽な走りに持続するスピード、スタミナ抜群で追いつくのもやっと。
「出来上がったハウスで遊ぶのに体力をとっておくから、半分の力で走るよ」と風の様に駆けながら言う。
「秘密基地だから誰にでも教える訳じゃない」と殺し文句も忘れない小さな森の案内人。
先達も子供たちもここでは皆が先生で、教わることばかりだった。

やがて有形無形の産物がこの場所から次々に生み出されていくに違いない。
子供たちや大人たちが夢想する秘密基地、間伐材利用のユニークなツリーハウスも敷地内のあちこちに増殖していったら素敵だ。

3泊4日の旅を終えて帰京する。セスナ機から目視可能と聞いた大村湾のスナメリに出会うことは叶わなかったが、なんと東京湾の上空で、鯨の遊泳姿を目撃した。雲や機体の影かしらとしばらく疑いながら凝視するうち、巨体をくねらせて方向変えし、やがて海中に姿を消してしまった。幻だったのだろうか。
そういえば代表の加固さんとは東京で何度かすれ違っていたらしい奇遇も発覚し、不思議な旅だった。
しかしながら、おおむらの里山村は存在の不確かな桃源郷などではなく、理想とリアルに溢れていたとしみじみ思う。

ゆでピーを食べにまた訪ねていこう。
皆様のあたたかな歓迎に感謝!
健やかに、ますますの発展をお祈り申し上げます。

小口詩子 (映像作家)

里山風景丸太皮むき木の皮集め皮むき丸太ツリーハウスの櫓ツリーハウスのデッキ見つめる子供柱の仕口加工見つめる子供ツリーハウスの梁棟梁とチェーンソー元気な子供ネームプレート制作トラックと子供たちハンモックターザンブランコ少年と秘密基地炭燃料ピザ窯広がる農園レモンの樹収穫ミカンミカンジュース甘い人参稲作地