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生物科学研究所 井口研究室
Laboratory of Biology, Okaya, Nagano, Japan

Biogeography and plate tectonics of the Izu islands

Yutaka Iguchi
Director
, Laboratory of Biology
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Species-distance relationship

The theory of island biogeography suggests that the number of species on islands would be negatively correlated with distance to the mainland (MacArthur and Wilson, 1967). Iguchi (1988) examined the relationship between the number of cerambycid species on the Izu islands and distance from the Izu Peninsula, Japan. The results supported the theory of island biogeography (Fig. 1) and suggest that the cerambycid fauna came over the sea from the Izu Peninsula to the Izu Islands.

However, the tectonic movement of the philippine sea plate (that is, plate tectonics) may also affect the formation of fauna on the islands, in particular, with respect to the collision of the Izu Peninsula against central Honshu, the mainland of Japan (Matsuda, 1978). This will be an important theme for future studies of the biogeography of the Izu Islands.

Island Biogeography, species-distance relationship on the Izu islands, Japan
Fig. 1 The theory of island biogeography may explain a negative species-distance relationship with respect to cerambycid species on the Izu islands, Japan.

Izu Peninsula Geopark

Iguchi (1988) was the first to discuss the influence of the Izu collision event on fauna. Recently, however, Dr. Abhik Chakraborty, specialist researcher of Izu Peninsula Geopark Promotion Council, has shown his interest in this field. The Izu Peninsula has been registered as Izu Peninsula Geopark since September 24, 2012. The main theme of this geopark is the Izu collision event, named Volcano gifts from the south. The activities of this geopark will contribute to the development of interdisciplinary studies including geology and biology.

References

Iguchi Y. (1988) Biogeographical problems of the Izu islands. Gekkan-Mushi (A monthly Journal of Entomology) 172: 27–29. PDF (abstract)

MacArthur R.H. and Wilson E.O. (1967) The theory of island biogeography. Princeton University Press, Princeton, NJ.

Matsuda T. (1978) Collision of the Izu-Bonin arc with central Honshu: Cenozoic tectonics of the Fossa Magna, Japan. Journal of Physics of the Earth 26, Supplement: 409–421. PDF


伊豆諸島の生物地理とプレートテクトニクス

井口豊 (生物科学研究所
最終更新:

1. 古伊豆半島存在説と伊豆半島衝突説をめぐって

プレートテクトニクス(plate tectonicsは,今や馴染み深い科学用語のひとつと言って良い。最近では,2011年の東日本大震災,あるいは,近い将来起きると予想されている東海地震や東南海地震との関連で語られることも多い。現在では,中学の理科の教科書にも登場し,高校受験生にとっても,プレートテクトニクスは重要用語である。

しかしながら,1970年代頃までは,少なくとも日本の一般の人々にとっては,耳慣れない用語であった。この時代,中学や高校の教科書にもプレートテクトニクスの詳しい記述はなかったし,大学の一般教育科目の地学でも,ほとんど語られなかったと思われる。その頃はむしろ,ウェグナー(Alfred Wegner)の大陸移動説という名称が広く用いられ,地球科学関係の専門課程に進んだ学生以外は,漠然としたイメージでしかプレートテクトニクスを学ばなかった学生も多かったものと思われる。

この状況は,生物地理学の分野においても同様であった。

島国である日本では,本州や九州といった主要島だけでなく,周辺の小さな島々でも,そこの生物相の成立過程に興味が持たれてきた。しかしながら,その成立要因として,地形変動で挙げられるのは,海水準の変動とか山脈の形成と言った,いわば垂直方向の変動であった。もちろん,山脈の形成にもプレート運動は深く関わるのだが,そんなことが語られることは,ほとんどなかった。

プレートテクトニクスを考えれば,生物の分布や進化に影響を与える要因として,当然,プレートの水平方向の運動も想定される。そのような影響を大きく受けているかもしれない島々の例が,このページの主題でもある伊豆諸島である。

伊豆諸島の昆虫相,特に,カミキリムシ相の成立に関しては,高桑(1979)が古伊豆半島の存在を仮定した。

しかしながら,この高桑(1979)の古伊豆半島説では,フィリピン海プレート(Philippine Sea plateの運動が全く考慮されていなかったのである。それを指摘したのが筆者の論文(井口,1985)だった。

この論文は,伊豆諸島の生物相の成立過程を考える際に,フィリピン海プレートの運動を考慮すべきだ,と主張した数少ない例であったと思われる。その後,この考えには,佐藤(1987)も大いに賛成した。藤田(2012b)が挙げた,伊豆諸島の昆虫に関する参考文献を見ても,筆者の論文(井口,1985)を除けば,まだまだプレートテクトニクスを考慮した伊豆諸島の生物相の論文は少ない。

余談だが,島嶼の昆虫に関して,MacArthur and Wilson (1967) の理論に基づいて,種数―距離関係を調べた数少ない例が,筆者の研究(井口,1985)だったと,あとから指摘されて知った(野淵輝・槙原寛,1987)。

確かにそれまで,伊豆諸島に限らず,島嶼の昆虫では,種数―面積関係が調べられてきた(木元,1976; Kobayashi, 1983)。もちろん,種数―面積関係で,距離の影響も考慮できるのだが,筆者(井口,1985)が調べた伊豆諸島のカミキリムシのデータに関する限り,面積に関係なく,種数は距離だけで説明できてしまうように見えた(図1, Pearson's r = −0.91, P = 0.01)。もちろん,この論文発表当時のことであり,それから新たなデータが追加され,当時とは異なったモデルが考えられるようになるかもしれない。

伊豆諸島におけるカミキリムシの種数と伊豆半島からの距離
図1. 伊豆諸島におけるカミキリムシの種数と伊豆半島からの距離の関係.距離は,伊豆半島から各島まで,順に,島伝いに計算された. 井口(1985)参照.

話を元に戻そう。高桑の古伊豆半島説が,黒沢良彦の影響を受けたものであることが,高桑(2008)に書かれている。その黒沢は,古伊豆半島説 を主張すると同時に,伊豆半島衝突説を否定したことがあった(黒沢,1989)。

伊豆半島衝突説とは,フィリピン海プレートに載った伊豆地塊が,そのプレート運動とともに北上し,第四紀後半に本州弧に衝突・付加したと考える学説である。その先駆的な研究のひとつとして,Matsuda (1978) が挙げられる。伊豆半島衝突説に関しては,月刊地球1986年10月号に,「南部フォッサマグナ —その衝突現象—」という特集が組まれており,この学説の成立過程や初期の研究内容が分かる。また,伊豆半島を含む南部フォッサマグナ地域(South Fossa Magnaの衝突現象に関して,最近までの研究動向は,平田ほか(2010)にまとめられている。

黒沢(1989)は,フィリピン海プレートの運動によって引き起こされる地殻変動の様式や年代を,どうやら十分に理解していなかったらしい。それを指摘したのが,筆者の論文(井口,1992)であった。

黒沢(1989)や高桑(2008)の唱える古伊豆半島存在説の問題点は,プレートテクトニクスの議論の土俵に上がっていないことなのである。フィリピン海プレートの運動によって変化した伊豆地塊の立体的な位置,すなわち,いつ陸化したとか,それが本州から見てどこにあったかとか,そのような情報を彼らは取り込んでいなかった。「地質学者は賛成しないだろうが・・・」と言うだけで,古伊豆半島存在を唱えたり,伊豆半島衝突説に反対したりすれば,生物地理学とプレートテクトニクスの議論は全く噛み合わなくて当然であった。

ただし,高桑(2004)がプレートテクトニクスを意識して,古伊豆島の位置と生物相の成立の関連性を論じていることは注目に値する。

伊豆・小笠原諸島だけでなく,伊豆半島やその周辺地域の生物地理を論ずるときも,伊豆半島衝突説を考慮しなければならない場合が出てくる。

例えば富岡(1986)は,ルイヨウマダラテントウがグリーンタフ変動を受けなかった地域の残存種であると考えた。しかし筆者は,その分布パターンが第四紀最終氷期以降の地形や気候変動の影響を受けていると考え,残存種だとすれば最終氷期のものだろうと推定した(井口,1988;気候温暖化とルイヨウマダラテントウも参照)。

もし富岡(1986)のように考えるならば,伊豆半島やその周辺地域に分布する東京西郊型の分布には,当然,伊豆半島の移動が影響してくるはずである。しかしながら,富岡(1986)は,それを考慮に入れてない。

最近になって,様々な研究者が,プレートテクトニクスを考慮した上で,伊豆諸島の生物地理を検討する重要性を唱え,かつ,それを裏付けるデータを提示し始めた。日本生態学会関東地区会会報第58号では,伊豆半島を含む南部フォッサマグナの本州弧への衝突が,生物の進化や分布に与える影響を多くの論文が語っている(荒谷邦雄, 2009; 平田ほか, 2009; 長谷川, 2009; 林・千葉, 2009; 岡本・疋田; 2009)。これは,私にも非常に興味深い動向である。この先,伊豆諸島や伊豆半島および南部フォッサマグナ地域の生物相を研究する若者たちには,生物だけでなく,この地域の地球科学(火山学を含む)も十分に勉強して欲しいと思っている。

また,最近発表された藤田(2012a, b)は,プレートテクトニクスに関連した内容は少ないが,これまでの伊豆諸島の昆虫の研究を網羅的にレヴューした非常に優れた論文である。参考文献も充実しており,この地域の昆虫を研究する者にとって,必読論文と言える。藤田(2012b)も指摘したが,伊豆諸島や小笠原諸島には,世界に誇れる貴重な動植物が存在するのに,これらの地域が属する東京都に,都立の自然博物館が無いのは,不思議であり残念である。

なお,私の生物地理学に関する研究で,プレートテクトニクスが関連する話題としては,ゲンジボタルの3型の分化が挙げられる(ゲンジボタルの地理的変異参照)。どうやら,関東山地と飛騨山脈(北アルプス)の隆起時期の違いに関連して,ゲンジボタルの3型が生じたらしいのである(井口,2001a,2001b)。これらの山地の隆起した原因およびその時期には,当然,日本付近のプレートの運動が関わってくる。大場(1988)は,ゲンジボタルの型分化の過程を説明するのに,中部山岳地帯の山地を越えられなかったから,と地形の特徴を述べるにとどまっているが,これだけでは説明として面白くない。

ゲンジボタルに限らず,種分化の原因を地形に求めるなら,少なくとも日本においては,プレートの運動と関連付けて語ることが理想であると思っている。前述の筆者の論文(井口豊,2001a,2001b)は,それを意識して書いた論文でもある。

2. 伊豆半島ジオパーク

伊豆半島地域は,2012年9月24日に,伊豆半島ジオパークとして,日本ジオパークネットワークに加盟が認められ,さらに世界ジオパーク(Global Network of National Geoparks認定を目指している。伊豆半島ジオパークのメインテーマは,「南から来た火山の贈りもの」であり,前述の伊豆半島衝突事件を強調している。

2014年2月14日に,伊豆半島ジオパーク推進協議会の専任研究員チャクラバルティー アビック(Abhik Chakraborty)博士から,伊豆半島の生物相とプレートテクトニクスを関連付けた論文を読みたいとの連絡があり,井口(1985, 1988, 1992)の3本の論文別刷を送った。特に,井口(1985, 1992)は,伊豆半島衝突説に,生物研究者の立場から言及したものである。前述のとおり,井口(1985)を書いた当時,伊豆半島の生物相とプレートテクトニクスの関連に注目した人は,ほぼ皆無だっただけに,チャクラバルティー博士の問い合わせには,隔世の感がある。

ジオパークと聞くと,何となく,地学関連の出来事の観察場所のように思えるが,日本ジオパークネットワークのジオパークに関する説明にも書かれている通り,生態系や人間生活との関わりを考える場所なのである。伊豆半島ジオパークは,プレート衝突が生態系に与えた影響を探ることができる,世界的にも貴重なジオパークと言ってよいかもしれない。今後,チャクラバルティー博士の研究や推進協議会全体の活動が期待される。

参考文献

荒谷邦雄 (2009) コメントにかえて:伊豆諸島のクワガタムシ相の特徴とその起源,他の分類群との比較. 日本生態学会関東地区会会報 58: 56–59. PDF

藤田宏 (2012a) 伊豆諸島のカミキリムシ相(中間報告)(上):分布状況の概説と昆虫相の成立について (English title: A preliminary report on cerambycid fauna of the Izu Islands: On an outline of the distribution and the formation of insect fauna) 月刊むし 492: 18–30.

藤田宏 (2012b) 伊豆諸島のカミキリムシ相(中間報告)(下):分布状況の概説と昆虫相の成立について (English title: A preliminary report on cerambycid fauna of the Izu Islands: On an outline of the distribution and the formation of insect fauna) 月刊むし 493: 13–24.

長谷川雅美 (2009) はじめに島ありき-伊豆・小笠原弧の生物地理と生物群集形成史. 日本生態学会関東地区会会報 58: 25–30. PDF

林守人・千葉聡 (2009) 伊豆諸島および伊豆半島におけるシモダマイマイの生態的・遺伝的変異. 日本生態学会関東地区会会報 58: 38–43. PDF

平田大二・山下浩之・ 鈴木和恵・平田岳史・李毅兵・昆慶明 (2010) プロト伊豆―マリアナ島弧の衝突付加テクトニクス―レビュー―. 地学雑誌 119(6): 1125–1160. PDF

井口豊 (1985) 伊豆諸島の生物地理学的問題について. 月刊むし 172: 27–29. PDF(要旨)

井口豊 (1988) ルイヨウマダラテントウの分布パターン.昆虫と自然 23(12): 30-32. PDF(要旨)

井口豊 (1992) 生物学者は伊豆半島衝突説を覆せるか. 月刊むし 252: 31–32. PDF(要旨)

井口豊 (2001a) 山梨県北部におけるゲンジボタルの発光パターンと地理的分化の過程. 全国ホタル研究会誌 34: 10–12. PDF.

井口豊 (2001b) ゲンジボタルの明滅周期一気温関係の地理的変異と進化. 日本鞘翅学会第14回大会講演要旨, p. 15. PDF.

木元新作 (1976) 動物群集研究法I. 多様性と種類組成.生態学研究法講座14, 192pp, 共立出版, 東京.

Kobayashi S. (1983) The species-area relation for archipelago biotas: Islands as samples from a species pool. Researches on Population Ecology: 221–237. PDF

Matsuda T. (1978) Collision of the Izu-Bonin arc with central Honshu: Cenozoic tectonics of the Fossa Magna, Japan. Journal of Physics of the Earth 26, Supplement: 409–421. PDF

野淵輝・槙原寛 (1987) 穿孔虫の移動分散. 昆虫と自然 22(2): 2–10.

岡本卓・疋田努 (2009) オカダトカゲの分布とその起源-伊豆半島に乗ってきたトカゲ-. 日本生態学会関東地区会会報 58: 44–49. PDF

大場信義 (1988) ゲンジボタル. 文一総合出版, 東京.

佐藤正孝 (1987) 地理的分化と種分化. 日本の甲虫―その起源と種分化をめぐって(佐藤正孝編): 199–209. 東海大学出版会,東京.

高桑正敏 (1979) 伊豆諸島のカミキリ相の起源. 月刊むし 104: 35–40.

高桑正敏 (2004) とくに昆虫類を例とした小笠原の生物相の特性,および人為によるその変革. 神奈川県立博物館調査研究報告(自然科学) 12: 5–12.

高桑正敏 (2008) 私の昆虫人生を振り返って. 自然科学のとびら 14(1): 1–5. PDF

富岡康浩 (1986) 「東京西郊型エピラクナ」の起源およびルイヨウマダラテントウの食性の地理的 変異について.昆虫と自然 21(11): 18–21.