アメリカの食品事故と最近の食品安全対策

          平成2112

アメリカの食中毒の状況

食中毒患者数

アメリカの食中毒(food born illness)の発生状況は、毎年患者が7、600万人で、そのうち入院患者が約32万人、死者が約5、000人もいると公式に発表されている。日本の食中毒患者数約24000人、死者4人(厚労省食中毒統計 98年)と比較して信じられないほど多い食中毒の発生である。

このアメリカの食中毒の患者数は、CDC(Center for Disease Control and Prevention)が主として1992年から1997年までの各種資料をもとに推計を行ったものである。以前は、食中毒患者が600万から8,100万人で、死者が9,000人と推計されていたものを、より正確に推計するため算出されたものである。その推計の概要は次のとおりである。

表1      病原菌が特定できた患者

 

総数

うち症状が激しい患者

うち食中毒と推計(A)

発生者数

入院

死亡

39,000,000

181,000

2,700

36,000,000 人

163,000


1,400

14,000,000 人

55,000

900

表2   症状による患者(病原を特定できなかった患者)

 

総数

うち食中毒と推計(B)

発生者数

入院

死亡

211,000,000 人

937,000

6,400

62,000,000


263,000

3,400

    

表3     食中毒による患者合計推計値

 

(A)と(B)を加えた数値

補正を加えた数値

発生者数
入院

死亡

76.000.000 人

318,000

4,300

76,000,000

325,000

5,000

表1から3までの資料:
   Paul.Mead and others, Food-Related Illness and Death in the United-States, Emerging Infectious Diseases, Vol.5 (5),1999

これをみると、病原が特定された食中毒患者が年間1,400万人であり、死者が900人もいるというのは、かなり多いと言わざるを得ないであろう。

食中毒発生原因と食品

食中毒の原因は、表3のCDCの資料によるとノロウイルス、カンピロバクター、サルモネラ、ボツリヌス、黄色ブドウ球菌、O-157などである。サルモネラによる食品事故は発生件数も多くかつ死亡者も多いので社会的な問題となっている。また、O-157による事故は、患者数がそれほど多くないがハンバーガーや青果物に発生することが多く大きな問題となっている。リステリア汚染は最近発生件数がそれほど多くなくなっている。

表4       アメリカの食中毒の状況

食中毒の原因 (A)

     発生しやすい食品 (B)

食中毒

患者数

(C)

セレウス菌

Bacillus cereus

食肉,シチュー、 gravies, バニラソース

27,360

カンピロバクター

Campylobacter jejuni

生又は調理度の低い食鳥肉,未殺菌牛乳、汚染された水.

1,963,141

 

ボツリヌス菌

Clostridium botulinum

不適切な缶詰食品(特に家庭で作った野菜缶詰), 発酵した魚 アルミフォイルに入ったふかしたじゃがいも、びん入りにんにく

   248,520

 

クリプトスポリジウム

Cryptosporidium

未調理食品、調理後に調理器具から汚染された食品,汚染された水.

30,000

 

サイクロスポラ胞子虫

Cyclospora cayetanensis

各種生鮮食品 (特に輸入ベリー、レタス、バジル),

 

   31,229

 

大腸菌

E. coli (Escherichia coli)

人糞から汚染された食品又は水

   110,649

腸管出血性大腸菌

E. coli O157:H7

調理の程度が低い牛肉 (特にハンバーガー),未殺菌牛乳、ジュース、生鮮果実及び野菜(たとえば芽)汚染された水

   62,458

 

 

A型肝炎

Hepatitis A

生の食品、汚染された水,未調理食品、調理器具によって汚染されその後温めてない調理済食品、汚染された水からの貝類.

    4,170

 

リステリア菌

Listeria monocytogenes

未殺菌牛乳、未殺菌牛乳から作られたソフトチーズ、 ready-to-eat deli meats

2,493

 

ノロウイルス

Noroviruses

生の食品、汚染された水、未調理食品、調理器具によって汚染されその後温めてない調理済食品、汚染された水からの貝類.

9,282,170 

サルモネラ菌

Salmonella

, 食鳥肉, 食肉, 未殺菌牛乳又はジュース, チーズ、汚染された生鮮野菜・果実

1,341,873

赤痢菌

Shigella

生の食品, 汚染された水, 未調理食品、調理器具によって汚染されその後温めてない調理済食品

   89,648 

黄色ブドウ球菌

Staphylococcus aureus

冷蔵されていない又は不適切に冷蔵された食肉、じゃがいも及び卵サラダ、クリーム菓子、

  185,060

 

腸炎ビブリオ

Vibrio parahaemolyticus

調理度の低い又は生の魚介類

   NA

ビブリオ バルニフィカス

Vibrio vulnificus

調理度の低い又は生の魚介類(特に牡蠣)

      47

   総計

 

13,814,924

資料:(A) 及び(B)はFDA資料、(C)はCDC資料から作成

(注)(A)に列挙された以外に病原菌類は多くあるが、その患者数は(C)に記載していない。ただし、患者数の総合計は記載しており、これは表1の(A)の原因が特定できた食中毒患者の合計数と一致する。

食品別には、表4に食中毒が発生しやすい食品が示されている。また。09年に Center for Science in the Public Interestワーストテンの食品として、

青物葉菜、卵、マグロ、牡蠣、じゃがいも、チーズ、アイスクリーム、トマト、

野菜の芽、ベリー類

を列挙している。(ただし、農務省所管の肉類、肉製品及び卵加工品が除かれている。)

食品事故の多発

また、アメリカでは食品安全対策を強化してきているものの、食品事故が減少する気配を見せていない。さらに、近年毎年のように多くの州に関係する大きな食品事故の発生がみられる。最近では、096月FDA及びCDCがネスレ社のクッキーのドウを購入しないように消費者に警告した事件(3月から発生、Oー157汚染とみられ、患者71人、30州)、08年夏から09年にかけほとんどの州で発生したピーナツバターによるサルモネラ汚染(患者474人)、08年に発生したトマト等生鮮野菜のサルモネラ汚染事件(41州、患者4万人以上)などがある。すべてを網羅したわけではないが近年の大きな食品事故は次の表のとおりである。

表5 最近のアメリカの主な食品事故

(1)牛ひき肉によるO-157食品事故

    0910月 ロードアイランドで20人の学童と大人が牛ひき肉によるO-157食中毒

    0911月 ニューヨーク州で牛ひき肉によるO−157汚染、2人死亡、28人が食中毒、50万ポンドのひき肉が回収された。

 

(2)クッキーのドウによる0−157食品事故

    ネスレ社のクッキーのドウを生で食べることによるO-157食中毒

    093月から発生し6月末までに30州で71人の患者

    099FDACDCは消費者にこの製品を摂取しないよう警告 

(3)ピーナツバターによるサルモネラ食品事故

    088月から091

    091月時点、43州で発生、患者474人、死者 6

       ピーナツバターのみでなくクッキーなどの食品のリコール

(4)トマト等を材料とする生鮮サラダによるサルモネラ食品事故

084月から8

全米41州で発生、1017ケース 、患者4万人以上、入院203人 

85年以来のサルモネラ最大の事故、原因究明に長引く。 メキシコ産ペッパー

(5)鶏肉・七面鳥のパイによるサルモネラ食品事故

0710月、31州で発生、152ケース、20人入院

ConAgra社全品リコール

(6)O157汚染による牛ひき肉市場撤去

07年 Topps Meat Company製 全米で史上2番目の牛肉リコール事件

(7)包装牛肉によるO157食品事故

07年4月5月、11州で発生、患者14人、

United Food Group 570万ポンド回収

8)たまねぎによるO157汚染食品事故

06年ニュージャージー、ロングアイランド州で発生、患者39

当初はGreen Onion が原因ではないかと指摘されたがFDA12月になって リーキが原因ではないかとし、最終的にはレタスが原因でないかとされた。タコベルはその間、カリフォルニアをベースとする玉ネギの供給業者が原因であるとして製品の材料として使用停止した。後に、たまねぎが原因でないことがわかり、裁判に訴えられている。

(9)袋詰めほうれん草によるO157汚染食品事故

06年 25州で発生、患者198人、死者3

ドール社、Natural Selection Foods 社が回収


資料: FDA及びUSDA

 



















































食品のリコール

アメリカでは食品事故が多いので、食品のリコールも多い。リコールはあくまでも民間の自主的な措置とされるリコールにも、FDA(Food and Drug Administration)の要請によ場合とFDAの法的な措置のもとで行われる場合がある(要請を断った場合FDAはその食品を市場から撤去する法的権限を持っている)。

第1は「クラスIリコール」と呼ばれるもので、違反の産品の使用が健康に深刻な影響を与えるか死の危険があると思われる場合にとられるリコールである。

第2の「クラスIIリコール」は、違反産品の使用が一時的で回復可能な健康被害の原因であるか、重大な健康被害の恐れがない場合にとられるリコールである。

第3の「クラスIIIリコール」は、違反産品の使用が健康に悪い結果を及ぼさないであろうと予想される場合にとられるリコールである。

リコール以外に市場撤去(market withdrawal)制度があり、FDAの法的措置の対象とならないものである。これは、企業が産品を市場から撤去したり、違反を修正したりするものである。

FSIS(USDA Food Safety Inspection Service)所管産品(食肉、肉加工品、卵加工品)についてもリコールの制度及び市場撤去制度ともFDAと同じである。

 6でも分かるようにアメリカでは食品事故によるリコールは月に30件以上はある。日本でもリコールの件数は同じように多いが、表示がらみのリコールの割合が高く、アメリカでは食中毒関連の割合が高い。

表6   FDA及びFSISがとりまとめ公表している食     品リコール数

2009

 

1月

 

2月

 

3

 

4

5

 

6

7月 

8

9

FDA

120

250

85

120

70

30

 

25

25

30

FSIS

 3

  4

  2

  3

 2

 5

 3

 2

 5

  資料: FDA及びFSIS

  (注)FDAのリコール数はラウンドした数値である。
     1月から4月までリコール数が多いのはピーナツバターのサル     モネラ汚染事故の影響である。
          FDA及びFSISとも食中毒以外の食品事故のリコールを含む。

 食中毒の報告

アメリカでは、食中毒(food born illness)とは同じ食品を摂取した複数の者が同じ病状になる食品事故と定義されている。消費者が食中毒になった思う場合は、その人は市又は郡の衛生当局に通報することが要請されている。また、医者及び医療施設は食中毒について市又は郡の衛生当局に通報しなければならない。通報を受けた市又は郡は州に対して報告することが要請されている。州は、サルモネラ、赤痢, ボツリヌス、リステリア、 O157:H7, 他の E. coli, HUS hemolytic uremic syndrome)、A型肝炎などについてはCDCに報告しなければならない。州等の試験所での分析が終了せず食中毒かどうか確認できないことがしばしばあるが、疑いがある場合は速やかにCDCに報告しなければならないとされている。さらに、消費者は肉類、肉製品、卵加工品に関してはUSDAにその他の食品及び飼料についてはFDAに食品事故を直接通報する道も開かれている。

食中毒に関する行政権限は基本的には州にあるが、近年複数の州に関係する食中毒が多くなってきており、連邦政府のFDAとUSDAが州等と連携し、州間の調整も行いながら、食中毒の予防や拡大の防止などの対策を実施している。CDCは、行政機関でなく食中毒等の発生情報の把握や分析を行う機関である。

アメリカの食品事故に対する対策

食品安全行動計画等の実施

食中毒が多発している状況に対処するため、FDAは2004年10月生鮮食品の食品事故を防止するため「食品安全行動計画」を開始した。この行動計画は生鮮及び軽く加工調整された野菜と果実を対象とし、リスク評価、細菌の汚染の防止に関する研究と対策、事故が起きた場合の被害拡大の防止策などであった。 

また、アメリカでは、サルモネラ菌に汚染された卵の消費から毎年約118,000人が食中毒になっており、1970年代と比較し3倍に増加していることから、2004年9月FDAは、卵の生産の段階でサルモネラ菌汚染を撲滅するための計画を採択した。

さらに、アメリカでは、リステリアによる事故で毎年約2,500人が重症となり、約500人が死亡しており、その発生源は生産段階のほか加工段階であることから、FDAはFSISと協力して危険の可能性のある調理済み食品のリストを作成し公表した。

バイオテロリズム法の施行

20019月のニューヨークにおけるテロ事件の発生に対応して、02年にバイオテロリズム法が制定された。この法律の目的は、食品によるテロリズムを防止することにあったが、特に輸入食品の安全を確保する制度が強化された。したがって、アメリカに食品や飼料を輸出するすべての施設の登録の義務、輸入の事前通報制度、すべての食品及び飼料の取引の記録と保存の義務(トレーサビリティ)(0512月施行)が導入された。

大統領食品安全ワーキンググループの設立

以上のような対策にもかかわらず、食品事故が多発し、依然としてアメリカ国民の食品安全が脅かされているとの認識からオバマ大統領は、2009年3月大統領食品安全ワーキンググループを設立した。このワーキンググループの目的は大統領に対して食品安全制度をどのように強化すべきか提案することである。そしてオバマ政権は、次のような手順でとり進めていくことを発表した。

(1) サルモネラ汚染の防止

 消費者や卵業界のこれまでの協力にもかかわらず、連邦政府はサルモネラ汚染を防止するための卵の安全に関する基本ルールを完成することができなかった。そこで、次のような措置を進める。

@   卵のサルモネラ汚染の減少

 FDAは卵の生産段階におけるサルモネラ汚染の管理に関する最終ルールを定める。

 これによって、生卵及び加工の程度の低い卵の汚染を60%減少させ、あるいは患者を79,000人減少させる。この措置によって10億ドルの損失を防ぐことができる。

A   食鳥肉におけるサルモネラ危害の減少

 FSISは、七面鳥におけるサルモネラ汚染の拡大を防ぐための新しい基準を開発する。また、FSISは、2010年までに食鳥処理施設の90%が新しい基準を満たすことを目的にサルモネラ確認計画を立てる。

(2) O157の脅威の低減

  アメリカでは、毎年約70,000人がO157による腹痛を訴え、15人の患者のうち一人の割合で激しい腹痛、高血圧又は肝臓病にかかり、また、死亡する例もある。最近は食肉とほうれん草でO157汚染が多く頻発している。そこで、次のような措置を進める。

@       牛肉処理施設の対策の強化
FSISは、牛肉処理施設のE−Coli汚染防止の確認方法に関する指令を改正する。

A 青野菜、メロン及びトマト
の汚染防止
FDAは、産業界が生産及び流通の段階において青野菜、メロン、トマトの微生物汚染を防止する手引書の案を作成する。これによって、連邦政府は全州に適用となる最低基準の作成を促進することができる。今後の2年間で規制の採択に向け努力する。

     (3)連邦追跡・対応システムの確立

食中毒の原因を特定するための早期追跡システムが消費者及び産業界をまもることになる。現在の追跡能力が非常に限定されているので、FDAは製品追跡システムの案を数カ月以内に作成公表する。また、連邦関連機関は、食中毒の発生に対処するための指示システムを3カ月以内に実施する。これによって、連邦機関、州及び地方の機関間の連携の緊密化と危機に対する対応が促進されることになる。
 これらのほか、公共衛生疫学計画の強化、生産者の危機対応の強化、州政府の能力の改善及び警報システムの改善による食品安全危機情報に関する新技術の利用を実施する。

食品報告登録制度(Reportable food registry)の開始

2009年9月FDAは、食品あるいは飼料について人間あるいは動物に対する健康被害が起きる合理的な可能性がある場合に事業者に対してコンピュータによる通報を義務付ける制度を発足させた。この制度は消費者に対する危害を防止することを第一の優先とするオバマ大統領の食品安全ワーキンググループの目的に沿ったものであるとアメリカは説明している。

報告義務者はアメリカ国内で消費される食品及び飼料を生産、加工、パック又は保有している登録事業所であり、24時間以内に報告しなければならない。アメリカに輸出する事業所も対象になる。報告対象産品はFDA所管の食品及び飼料であり、USDA所管の食肉、肉製品、卵製品は対象にならない。この報告制度によってFDAは危害の発生状況をよくトレースし、検査の重点を絞り込むことができ、速やかに食品事故を防止するための制度であるとされる。

食品安全強化法案

食品の安全に対する国民の不安を背景にFDAの強化を中心とする食品安全を強化する法律が検討されている。09730日下院で可決し、今後上院で審議されることになっている。、その内容はJETRO及び農畜産振興機構のレポートに紹介されているので、本稿では省略する。

アメリカの食品事故の評価

アメリカの食中毒に比較し、日本の食中毒の発生状況は、表7のように患者数が年間2〜4万人、死者は10人以下である。また表8によると、フランスは患者数75万人、入院者数113,000人、死者400人である。オーストラリアでは患者が540万人もいる。このように見ると日本はずばぬけて安全な国ということになるが、数字の違いが大きすぎて果たしてそのまま比較できるのかという疑問が生じる。

 アメリカの食中毒患者数の把握は表1から3に見られるように報告をベースにして、症状が比較的軽いものや患者集団が小さいものなど報告がなされていないものがあるとの前提にたって各種の研究や調査を参考にして、報告された患者数に一定の割り増しを行って推計する方法がとられている。したがって実数値ではない。入院者数についても同様である。

 これに対して日本では患者を診察した医者が保険所に通報し、それが県に報告され、さらに、県が国に報告する方法で食中毒統計が取りまとめられる。実数値ではあるが

このような報告制度では、個人がノロウイルスにかかったとしても医者にいかない場合、軽い症状などの場合は統計上載ってこないことになる。したがって、日本は、多く発生していると思われる軽度のあるいは小規模の食中毒の実態を把握する努力をせず、食中毒のリスクを過小評価しているのではないかとの批判もある。特に他の国の統計と比較してみると入院患者や死者も日本では正確に調査されていない可能性があり、食品安全確保にとって重大な事実確認がなされていないおそれがある。つまり食中毒の原因が究明されないまま単に腹痛として放置されていると解釈されるのである。

 表7       日本の食中毒発生件数等

 

事件数 

患者数 人

死者数 人

平成20

1,369

24,303

 4

19

1,289

33,477

 7

18

1,491

39,026

 6

10

3,010

46、179

 9

9年

1,900

39,989

 1

8年

1,217

46,327

15  

    資料 厚生労働省

   表8     食中毒による患者数各国比較

 

患者数

入院者数

死亡者数

人口

アメリカ

7,600万人

325,000

5,000

3億1,500万

 フランス
 
 イギリス

 75

172万人
 

113,000
2万1,997

400

687

6,200万

6,160万

 オーストラリア

 540

18,000

120

2,200万

 日本 

24,302

  NA

 4

1億2,700万

資料 アメリカ: Food related Illness in the United States, CDC   フランス:  Morbidite et mortalite dues aux maladies infectieuses d’origine alimentaire en France, Institut de Velle Sanitaire
イギリス:Adakらによる2005年調査(イングランド及びウエールス)
オーストラリア:
Food born Illness in Australia, Oz FoodNet

日本:      食中毒統計、厚生労働省

 したがって、日本、アメリカ、フランスのこの食中毒患者統計を比較してどの国が安全で、どの国が安全でないとの評価は一概にはできないであろう。

 しかし、アメリカの食中毒患者総計7,600万人は別としても、病原菌が特定できる患者が1,400万人で死者が900人という数値である。また、サルモネラ汚染やO157汚染などによる事故が多発し、社会問題になっていることを見ると、やはり食中毒の危険は高いということができよう。さらに、アメリカは、サルモネラ対策、リステリア対策などを実施してきたが、一向に減らないという事実もある。

 アメリカはいち早くリスク評価を中心とするリスク分析手法を導入し、HACCP制度の先駆者でもあったが、食品安全に対する不安がなぜ取り除かれないかという疑問が生じる。アメリカは食品安全対策の基本をリスク評価による科学的証拠がない措置は意味がない、また食品の生産流通過程を問わないとしているが、この食品安全の基本思想に問題がないかということも検討してみる必要があると思われるのである。

 サルモネラの食中毒の例をとれば、ピーナツバターの製造段階ではリスク評価によって危険率はきわめて低いであろう。しかし、汚染が生じた場合原因究明が長い間なされず、汚染されたピーナツバターがその間大量に流通し、さらに他の食品の原料になったり、外食産業に利用されたりして汚染が拡大していく。このような場合製造段階にけるリスク評価よりトレーサビリティなどによる原因の早期究明と有効な拡大の防止の方が重要となる。いずれにしても、産品のリスク評価ではきわめて低い危険率を確保するのに、食中毒と人間への発生ということになると危険率が25%(人口3億人に対して7,600万人の患者)にもなるのはどうしてなのかという問題である。この点に関しCDCは、現在のアメリカの食品安全システムと食品が農場から食卓に行くまでの安全確保手法の開発及び評価の必要性との間にギャップがあると指摘している。

 日本については、食中毒の実態をより正確に把握・推計すべきと思われ、そのうえでの有効な安全対策が必要と思われる。日本で2003年に食品安全基本法を制定した際、リスク分析手法を食品安全対策の中心に据え、リスク評価に基づかない措置は食品安全措置ではないという考え方がとられた。このことによって、トレーサビリティ、HACCPを含み生産過程を管理・チェックする制度も基本的には民間で実施すべき自主的なものとされている。日本でも食品の安心の措置の位置づけを含み食品安全対策の基本的考え方をこの際見直す段階に来ているとも思われるのである。

本稿の作成に当たっては、国立保健医療科学院の豊福肇室長及びJAS協会伊藤専務理事にご協力いただいた。本稿の評価及び意見については筆者の見解である。

この資料は、食品トレーサビリティ協議会フリシス情報No39、2009年12月に掲載されたものである。

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